カフカス旅行記 5 【グルジア・アルメニア】トビリシ~エレバン

カフカス旅行記4の続きです。

最初からはこちら(カフカス旅行記 1 【グルジア】トビリシ~ボルジョミ - ながさっちゃんぽん

 

2020/2/21 トビリシエレバン

 

6:37,トビリシ中央駅に到着。昨晩飲み過ぎたため下痢と二日酔いが酷く,暫く駅のスタローバヤで休憩。

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ポテトパイとチーズパンで2ラリ(=40円)。スタローバヤにはコンセントもあり,トレインビューも楽しめるので休憩には打ってつけだった。トイレは一回0.5ラリで有料。

8:30頃,スタローバヤを出た。この日は夕方までトビリシ観光。まずはムタツミンダ山へ行くことにした。地下鉄に乗ってLiberty Squareで下車し,ケーブルカーの駅へ。

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結構な急坂。学校に行く子供達が大勢いた。

駅で切符となるICカードを購入。往復20ラリくらいと結構高かった。

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 2012年に登場したばかりの新しい車輛。展望を楽しめるよう天井にもガラスがはめられている。

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middle駅での入れ違い。ケーブルカーはlower駅,middle駅,upper駅の3駅ある。middle駅はFather David Churchやムツミンダ・パンテオンへの最寄駅となっている。

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天井もガラスなので後面展望がよく見える。しかしこの日は生憎の靄であまりよく見えなかった。

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upper駅到着。架線レスでupper駅で充電して動いているようだ。

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upper駅を出て直ぐ目に入るテレビ塔。高さ274.5mと相当高い。塔自体が標高719.2mの高さにあるので,塔の尖端は標高約1000mにある。

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塔に登れる見学会とかはやってないんだろうか。是非登ってみたい。

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テレビ塔の西側から,トビリシの北方向の眺望。

タツミンダ山を降り,国立博物館へ。

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博物館内にあった地図。よく見るとトビリシが今の綴りთბილისი(tbilisi)と違い,ტფილისი(t'pilisi)となっている。Wiktionary(en)によると,元はტფილისიと書き,その由来は「あたたかい」を意味するტფილიだったらしい。それがთბილიに変化したことに伴って20世紀初頭に綴りが変えられたようだ。t'がpからの逆行同化で帯気し,続いてpがiからの逆行同化で有声化したのだろうか。

博物館には様々な展示があったが,四階の現代史が特に面白かった。しかし南オセチア紛争など近年のロシアとの急速な関係悪化についてはあまり触れられていなかった。

ルスタヴェリ通りを歩いて温泉へ向かう。

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ルスタヴェリ通りは観光地化され綺麗に整備されていた。

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シオニ大聖堂。

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中も見学できる。

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温泉に到着。一番安い5番の温泉に入る。

雰囲気は温泉というより銭湯に近かった。狭いロッカーに衣服を抛り込んで鍵を掛けて入湯するスタイルだった。更衣部屋は普通に床(靴を脱ぐとかはない)なのでサンダルが必須。皆サンダルを履いたままシャワーを浴びていた。泉質は硫黄泉で,結構な硫黄の臭いがするが,正直日本の温泉と比べると生温い。他の1~4番や個室温泉はどうかわからないが,温泉に関しては日本が一番だろう。サウナもあった。

温泉をあがり,トビリシ中央駅に戻った。エレバン行きのマルシュはトビリシ中央駅から出ている。

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エレバン行きマルシュの受付所はキャンピングカーの残骸だった。パスポートと運賃35ラリ(=1330円)を係員に渡すと受付完了。パスポートは返却される。出発時刻は10:00,10:50,11:40,13:20,15:00,17:00などと情報を得ていたが,恐らく定員一杯になると発車してしまうので,早めに行く方が良いと思われる。

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マルシュは定刻通り15:00に発車し,9人乗りに6人で非常に快適だった。

国境のサダフロまでは約1時間30分で到着。アルメニア入国審査ではCOVID-19対策の為か通過する全ての人に対し体温測定を実施していた。

やや緊張したが特に何事もなくアルメニアに入国し,ここから更に4時間程度の道程。アルメニアに入るとソ聯車をよく見かけるようになった。

車の調子が悪く,ずっと2速で唸って異臭が車内に立ち籠めたり,エンジンが掛からなかったりとかなり不安な道中だった。途中で運転手がエンジンルームから潤滑油の入った2Lボトルを8本ほど取り出して(なんでそんなところに入れているんだ…),私の坐る後部座席の足下に置いた。発火を恐れたのだろうか。エレバンまでの道中でアルメニアカップルの2人が降りて行った。

21:00頃,エレバン到着。21:30頃宿に到着するも,ダブルブッキングにより泊まれないと言われた。宿の人の伝で別の宿に泊まれることになり,タクシーを寄越してくれた。22:20頃無事投宿。泊まる予定ではなかった宿だがスタッフがとても親切にしてくれた。

車での長旅でヘロヘロだったが,腹が減っていたので近くのレストランへ。終始店内ステージでライブをやっていて,あまり落ち着けなかった。

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ボルシチ。しっかりとした株の味。ラヴァシュがおいしかった。

0:00頃に店を出て宿に戻り就寝。

 

カフカス旅行記6へ続く。

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カフカス旅行記 4 【グルジア】バトゥミ~トビリシ

前回の↓カフカス旅行記3の続きです。

最初からはこちら(カフカス旅行記 1 【グルジア】トビリシ~ボルジョミ - ながさっちゃんぽん

 

2020/2/20 続き バトゥミ~トビリシ

 

16:30頃,バトゥミ到着。

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首都トビリシとは全く異質の街並みが広がっていた。建造物から「西側」の雰囲気がする。

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Chachaタワー。バトゥミは黒海に面したリゾート地で海のイメージだったが,背後の山も綺麗だった。

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「西側」っぽさ満点の独創的な高層建築が櫛比している。この日の午前には東側っぽさ満点のチアトゥラにいたのだが。

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アジャリア自治共和国の旗。

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密閉箱型ではない(柵しかない)タイプの観覧車。

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乗ってみた。少し怖いが,景観は抜群に良い。

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グルジアではなぜかこういった道路脇などに脈略無くパンチングマシンが置かれている。グルジア人は力強いイメージがある(レスリングやラグビーが盛ん。片耳で8tトラックを引っ張るという謎のギネス記録保持者もグルジア人)ので,彼らがどんな記録を出すのか気になる。

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バトゥミ灯台

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海岸沿いは遊歩道が整備されており,黒海からの風を浴びながら気持ち良く歩ける。

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砂浜ではなく石浜で非常に歩きづらい。夏に海水浴するときはしっかりめのビーチサンダルが必須だろう。

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独創的な高層建築が目立つ。

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景観だけ見るとヨーロッパかどこかの国と勘違いしそうだ。

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煙のようなものは全て鳥である。恐ろしい量だが,どこへ渡っていくのだろうか。10分ほど経ってもまだまだ続いていた。

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ヌリゲリ池。

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街中へ入ると一気にグルジアっぽさが戻った。

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食前酒にツィナンダリ(白)。これ本当に美味い。

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本場のアジャリアハチャプリ。めっちゃうまい。

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ZEDAZENIとかいうビールはおいしくなかった。

バトゥミからは夜行列車でトビリシに戻るが,寝台列車("Night Passenger Trains")はオズルゲティ発(#653)とズグディディ発(#601)のみで,バトゥミ発はない。バトゥミ発の夜行列車(#811)だと普通の座席で寝る羽目になる。なのでタクシーでウレキ駅まで戻り,ウレキから#653に乗ることにした。

Yandexでタクシーを配車し,ウレキ駅へ。運転手が若いお兄さんで英語も話せたので宴会の如く会話が弾み,本当に楽しい時間を過ごせた。

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22:10,ウレキ駅到着。列車到着まで時間があったので更にビールを購入。運転手おおすすめのビールで,これは美味しかった。

23:13,#653がウレキを定発。トビリシ中央まで一等寝台で運賃35ラリ(=1340円)。

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一等寝台は2名一室のコンパートメントになっている。高級感のある内装で,掃除も行き届いていた。ビニール袋に入ったシーツのようなもの(布というより肌触りの良い包装材のような感じ)が配られた。

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シーツを展開するとこんな感じ。寝心地はとてもよかった。車内の装備品全てに細膩な心遣いが感じられる。

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通路側にはいわゆる黄昏席もあり,コンセントもある。

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車掌に言われて気付いたが,客室内には電灯の横側にコンセントがついていた。高所にあり抜けやすいので黄昏席のコンセントの方が使いやすい。

鏡に映っているがテレビも備わっている。まさに至れり尽くせり。

この日は車内で爆睡した。

 

カフカス旅行記5へ続く。

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カフカス旅行記 3 【グルジア】チアトゥラ

前回の↓カフカス旅行記2の続きです。

最初からはこちら(カフカス旅行記 1 【グルジア】トビリシ~ボルジョミ - ながさっちゃんぽん

 

2020/2/20 チアトゥラ~バトゥミ

 

この日は私がグルジアで最も楽しみにしていたチアトゥラに行く。

6:00に起床しゼスタポニ駅に移動。6:29,サチヘレ行き列車(#633)が定刻に入線してきた。運賃は1ラリ(=40円)で,トビリシ~ボルジョミのエレクトリーチカより更に安い。

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チアトゥラ到着目前で線路障碍物(?)により暫く停止中の車窓。

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8:24,チアトゥラ駅到着。時刻表上は14km離れたサチヘレに8:55着なので,恐らく数十分の延着。

チアトゥラはクヴィリラ川沿いに伸びる街で,周囲の山上でマンガンが採れ,川沿いの市街地と山上の採掘地を数多のおんぼろロープウェイが結んでいる。以前からそのチアトゥラのやばそうなロープウェイに乗ってみたかったのだが,残念ながら2019年夏頃に老朽化のため運行を停止してしまった。

駅を北東に出て,地下道を通りクヴィリラ川の方向に歩く。Google Mapはロープウェイが地図に出ないので,MAPS MEを使って散策した。

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地下道を出てそのまま川方向へ北へ歩くと見えるTkhelidze駅。ここから3本のロープウェイが伸びているはずだが,肝腎の搬器(人が入る箱)がどこにも見当たらなかった。写真右側の路線に至っては索条(ロープ)すら架かっていない。どうやら老朽化したロープウェイを更新している真最中のようだった。

この地域の人達にとってロープウェイは不可欠な生活の足だったはずだが,今彼らはどうやって街と山上を行き来しているのだろうか。車だとかなりの迂回を強いられる。

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索条は伸びているが搬器は撤去されていた。

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Tkhelidze駅の東側200mくらいの橋から。先程ロープウェイに搬器がなかったので,もしや全てのロープウェイから搬器が撤去されているのではと危惧したが,そんなことはなかった。奥側に川の上に停まった搬器が見える。

橋を渡り,この橋の東側に架かるもう一つの橋の北詰附近にあるロープウェイ駅(名称不明)へ向かった。

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チアトゥラの街。

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駅到着。とても半年前まで稼働していたとは思えない頽廃ぶり。索条も錆びまくっていた。

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この駅からは北北東方向と南東方向にロープウェイが出ている。先程橋から見えたのは南東方向のロープウェイで,この写真の青い搬器は北北東方向のロープウェイ。この覗き穴が2つついた搬器こそ私が見たかったものであり,感動も一入。

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まさに見たかった光景!実際に乗ってみたかった。

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ソ聯っぽい住宅や建造物が櫛比している。山上にも高層住宅が建っている。

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川の南側に渡り,最初に見えた川の真上で停まっている搬器を間近に見に来た。

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ズーム。やはり半年程前まで稼働していたとはとても思えない。

川沿いの道を西へ歩き,西側の橋の南詰から地下道を通ってChavchavadze駅へ。

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こちらも見事に搬器が残されていた。

しかし今残っている搬器も暫くすると更新工事により姿を消すのだろうか。おんぼろロープウェイに乗る事はできなかったが,姿を消す前には訪れることができたので良かった。

一度チアトゥラ駅に戻り,帰りの列車(#634)の時刻を確認する。駅には時刻表もなく駅員もいなかったので,プラットホームにいたおじさんに聞くと,11時発らしかった。ゼスタポニで12:54発のオズルゲティ行き列車に乗れないとまずいのだが,行きにゼスタポニ~チアトゥラでほぼ2時間かかったことに鑑み,安全策を採って結局帰りは#634ではなくマルシュを利用することにした。

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Abashidze駅。ここから2本のロープウェイが伸びているはずだが,索条は架かっているが搬器は撤去されていた。

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索条を張る巨大な柱だけが残されていた。

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ロープウェイの現状を纏めた。Tkhelidze駅とAbashidze駅から伸びるロープウェイは全て搬器が撤去されていた。★は搬器が残っていた箇所。あと暫くすると撤去されてしまうのかも知れない。

バスターミナルでチケットを買い,ゼスタポニ行きのマルシュに乗り込む。チアトゥラは便の少ない電車よりマルシュで来る人が多いようで,トビリシ行きのマルシュが頻発していた。マルシュは運転手の気が済むまで客を乗せると発車するスタイルなので,発車時刻は全く読めない。結局10:30頃に乗り込んでから40分くらい待って11:10に漸く発車した。

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悪路ではあったが9人乗りのバンに7人だったので非常に快適だった。

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12:13,ゼスタポニのバスターミナルに到着。電車で2時間かかったところを1時間で移動した。

ゼスタポニのバスターミナルからゼスタポニ駅までは1.6km程なので,歩いて移動できる。

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道中購入したシャウルマがめっちゃくちゃうまかった。

ゼスタポニから12:54発のオズルゲティ行き列車(#12)に乗車。これからバトゥミに向かうが,この列車はオズルゲティ行きなので途中のウレキ駅で下車しタクシーで移動する。

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この列車(#12)はトビリシ~リオニ間はクタイシI行き列車(#18)と併結して運転され,リオニ駅にて切り離しを行う。リオニ駅での切り離し作業中,架線点検用と思しき車輛が見えた。

15:36,ウレキ到着。ウレキ駅からタクシーに乗車。運転手はアンダーグラウンドを極めたようなおっさんで,金と女の話しかしなかった。途中,よくわからない場所で車が立ち往生していたので,「あれは何?」と聞くと「カーセックス」と返された。

 

カフカス旅行記4へ続く。

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カフカス旅行記 2 【グルジア】ボルジョミ・バクリアニ~ゼスタポニ

カフカス旅行記1の続きです。

2020/2/19 ボルジョミ・バクリアニ狭軌鉄道乗り鉄,ボルジョミ観光

 

ボルジョミ駅は二つあり,Borjomi Central Parkに近いBorjomi Park駅と,その一つ東隣のBorjomi駅がある。グルジア国鉄のサイトなどの「Borjomi」駅はBorjomi Park駅を指している。一方,ボルジョミ・バクリアニ狭軌鉄道はBorjomi Park駅ではなく,Borjomi駅から出ているので注意が必要

カフカス旅行記1にも書いたように,エレクトリーチカについては始発駅発車時刻と終着駅到着時刻の情報のみで,途中駅の着発時刻の情報は一切ない。公式サイト(Traffic General Schedule - English Railway)によれば,ボルジョミ・バクリアニ狭軌鉄道の始発列車(#6467)はBorjomi駅を7:15に発車する。またBorjomi Park駅を7:05に出発しトビリシに向かうグルジア国鉄のエレクトリーチカ(#685)が存在する。Borjomi Park駅とBorjomi駅の駅間は2km程度なので,恐らく#685と#6467はBorjomi駅で接続しているはずなのだが,ネット上には一切情報がなく確信が持てなかった。宿はBorjomi Park駅近くだったのでBorjomi Park駅から#685に乗って#6467に乗り継げると楽だったのだが,万一#6467に乗れないと今後の旅程が崩壊するため,大事をとってBorjomi駅まで歩くことにした。6:30に起床し,6:45には宿を出て,約30分の道程を20分くらいで走り(もっと早く起きよう…),Borjomi駅に止まっていた#6467に無事乗れたが,結局#685と#6467はやはり接続していた。しかも対面乗り換えが可能だった。

ボルジョミ・バクリアニ狭軌鉄道は車内で車掌から切符を買うスタイルで,運賃は2ラリ(=80円)だった。夏場は大勢の観光客が訪れる路線なので,観光列車らしく大きな窓を備えていた。窓は開閉できた。列車最後尾に乗ると後面展望も楽しめる。

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車窓から。機関車のパンタグラフは終始こんな感じでスパークしていた。

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とにかく山が綺麗だった。

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9:25,バクリアニ到着。ЧС11型電気機関車が雪景色に映える。

バクリアニは水の産地として有名で,グルジアではそこら中でBakuriani Waterが売られている。私は今まで「おいしい天然水」というものが理解できなかったが,このBakuriani Waterを飲んで初めて理解した。それくらい水がおいしい。

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機回し作業中。機回し線への転轍機が凍っているためまずこれを人力で削るところから始まる。

機回しが完了すると,そのままバクリアニ10:00発Borjomi行きの折り返し列車(#6468)となる。列車は10:00に定発。

帰りの車内は観光客らしき人達で一杯だった。東洋人は目立つので色々声を掛けられた。私の隣にボルジョミ・バクリアニ狭軌鉄道の職員らしきお爺さんが坐っており,私が持っていたニューエクスプレスグルジア語を興味深そうに読み,実際に発音してみせたりしてくれた。また沿線各所の絶景ポイントを知り尽しており,ここで写真を撮るといいなどと一々教えてくれた。

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車窓から。

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Borjomi駅には17分遅れで12:40頃に到着。隣に坐っていたお爺さんが機回ししており,別れ際に手を振ってくれた。

ボルジョミの中心はBorjomi駅ではなく一つ西隣のBorjomi Park駅で,飲食店もそちらに集中している。この時間グルジア国鉄の列車は皆無なので,タクシーでBorjomi Park駅まで移動した。

昼食は昨日と同じレストランで摂った。

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ヒルトゥマ(鶏のスープ),アジャリハチャプリ(卵の載ったハチャプリ),イメルリハチャプリ(グルジア人が一番よく食べるらしいピザ状のハチャプリ),ヒンカリ,ブリヌイ。明らかに昼飯に摂ってよいカロリー量ではない。チヒルトゥマは美味かったが,ハルチョーの方が好みだった。イメルリハチャプリは最初はうまかったが量が多く途中で飽きた。

 

昼食後,Borjomi Central Parkへ。ボルジョミも水で有名な街だが,その味は超個性的らしい。このBorjomi Central Parkではその水を試飲できる。

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ここの蛇口から水をペットボトルなどに取って飲むことができる。早速飲んでみたが,不味過ぎて一口で限界だった。錆びた鉄棒を舐めたような味で,しかも不気味な生温さがまずさに余計に拍車を掛けていた。しかし周りのグルジア人は皆巨大なボトルを持参し淡々と水を注ぎ入れ持ち帰っていた。

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公園の奥にあった難易度が高過ぎるアスレチック。地上から優に5m~7m程度はある。

プロメーテウスの像の前まで散歩したところで,Borjomi Park駅まで引き返した。

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Borjomi Park駅の西側地点。奥側がBorjomi Park駅で,手前側はアハルツィヘ方面に伸びているが,今も使われているのかは不明。少なくとも旅客輸送はやっていない。アハルツィヘへはボルジョミのバスターミナルからマルシュで行くことができる。

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Borjomi Park駅16:45発トビリシ行き(#617)に乗車。昨日乗った車輛と微妙に前照灯の形状が異なる。翌日朝早くにチアトゥラに行くため,この日の内にゼスタポニまで行く。

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車内券売機。2ラリ入れるとレシートのような乗車券が出る。

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ゼスタポニに行きたいので,この列車を途中のカシュリ駅で降り,カシュリ19:13発ゼスタポニ20:50着の優等列車(#874)に乗り換える。先述の通りエレクトリーチカは途中駅の着発時刻の情報が一切ないので,乗換えに若干の博奕要素があったが,結局#617は18:25頃にカシュリに到着したので大丈夫だった。カシュリ駅で#874の切符を購入。

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カシュリ駅の時刻表。

カシュリから#874に乗りゼスタポニに移動した。座席指定列車は乗車口に立っている車掌に切符とパスポートを見せて乗車する。

21:00頃ゼスタポニ到着。

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駅で翌日利用するチアトゥラ方面行きエレクトリーチカ(#633)のゼスタポニ到着時刻を押さえた。ゼスタポニ6:29着らしい。

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宿へ移動する間に通った人道橋。床版が薄い鉄板一枚で,踏んだ途端大きな音を立てて凹むので踏み抜かないかめちゃくちゃ怖かった。

宿はシャワーのお湯がいつまで経っても出ず凍えた。友人曰くシャワーのお湯が出ない時はミリ単位の微調整とお湯が出ない間の忍耐力が必要らしい。

寝る前に入国審査で貰ったワインを飲んで寝た。悪くはない味だったが,やっぱりツィナンダリの方がおいしい。

 

カフカス旅行記3へ続く。

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カフカス旅行記 1 【グルジア】トビリシ~ボルジョミ

この春(2020年2月下旬),グルジアアルメニアアゼルバイジャンカフカス三国を旅行してきた。日本語の情報が少ないグルジア国鉄を頻繁に利用したので,旅行記として情報を残しておきたいと思う。

 

2020/2/18 トビリシ旧市街観光~ボルジョミ

 

昼頃,トビリシ国際空港に到着。入国時に赤ワインを貰えた。

到着ロビーはコンパクトなので,両替とSIMカード入手が速やかに行える。情報では空港の両替所のレートは悪くない筈だったが,私の時はかなり悪かった。SIMカードはBeelineにした。通話なし1GBで30日間5ラリ(=200円)という驚愕の安さだった。

Yandex.Taxiというアプリでタクシーを配車しトビリシ市街まで移動。このアプリは主に旧ソ聯圏*1で使えるタクシー配車アプリで,グルジアアルメニアで大活躍した。手配時に運賃が確定するので,ぼったくられる心配や値段交渉の必要がない。またUberと違って現金決済も可能なのが素晴らしい。

アヴラバリ駅近くまでは約30分,21ラリ(=840円)だった。

 

至聖三者大聖堂まで徒歩で移動。

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2004年完成の比較的新しい大聖堂。南カフカスで最大の宗教建築らしい。中も見学できる。

今度はメテヒ教会へ。

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建設時期は5C~13Cと諸説あるが,取り敢えずめちゃくちゃ古い教会。牢獄として使用されたこともある。中の見学もできる。礼拝している人のみならず,教会の前を通り過ぎる人やタクシー運転手が十字を切っていたのが印象的だった。

 

メテヒ教会の近くの公園から出ているロープウェイでナリカラ丘まで上がってみた。地下鉄やバスと共通の交通系ICカードがこのロープウェイの窓口でも購入できた。

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トビリシ旧市街を一望。右奥に至聖三者大聖堂,右手前にメテヒ教会が見えた。

丘の上を東方向に歩きナリカラ砦へ。

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ナリカラ砦。

丘を下り温泉街へ。トビリシには温泉があるが(公衆浴場と個室浴場がある),後日利用するのでこの時はスルー。

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重厚な煉瓦造りの温泉街。温泉は1番から5番まであり,恐らく手前から順にグレードが高くなる。右奥のモスクのような青い建物も温泉である。附近にも幾つか温泉がある。

 

アヴラバリ駅に戻り地下鉄でStation Squareへ。「トビリシ」を冠するグルジア国鉄の駅は3つあり,北からディドゥベ,トビリシ中央(Station Square),サムゴリとなっている。メインはトビリシ中央駅,空港に近いのはサムゴリ駅,トビリシから各地へのマルシュ(乗り合いバス)のターミナルとなっているのはディドゥベ駅なので,目的によって降りる駅を使い分ける。各駅とも地下鉄が通っている。地下鉄は均一運賃制で0.5ラリ(=20円)。

 

トビリシ中央駅で切符を購入。日本の銀行のように受付票を機械で発行し番号表示板で指定された窓口へ向かうシステムだった。これからボルジョミへ向かうので,ボルジョミまでの切符と,後日使う夜行列車(ウレキ→トビリシ中央)の切符を購入した。座席指定制の列車*2は,グルジア国鉄の公式アプリ「Railway Tickets」で主要停車駅の着発時刻の情報や運賃などを確認することができる(但し主要駅以外の時刻は全く出ない)。このアプリで予め列車番号と着発駅・着発時刻,車種(一等寝台など),運賃を紙に書いてパスポートと共に受付に渡すとスムーズに発券できた。窓口では結構英語が通じた。

なお,非座席指定制のエレクトリーチカ*3については公式サイト(Traffic General Schedule - English Railway)の始発駅発車時刻と終着駅到着時刻しか情報がなかった。エレクトリーチカを途中駅まで・途中駅から利用する場合,着発時刻は頑張って推定するしかない。

 

今回は列車番号#686のトビリシ中央16:15発ボルジョミ(Borjomi Park)20:25着のエレクトリーチカを利用した。運賃はわずか2ラリ(=80円)。

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日本の海外鉄道愛好家からは俗に「新幹線」と呼ばれる車輛である。前々から乗ってみたいと思っていたが早速乗れるとは思わなかった。愛嬌のある顔をしている。速そうな外見とは裏腹に,吊り掛け駆動方式の重低音を轟かせながら終始40km/h~60km/h程度で走る。

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乗って暫くして車掌が車内改札に来た。この車輛では乗車券を自分で少し破って入鋏し,前の座席の角に挟むスタイルらしい。

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車窓から。架線柱が独特。枕木の間隔が日本よりかなり狭い。

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夕陽と軌道と木が美しい。

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#686列車はカシュリ駅からクタイシ・バトゥミ方面へ向かう路線と分岐し,ボルジョミ方面へ向かう。

カシュリ駅を過ぎた辺りから,トビリシの大学生らが車内で映画撮影を始め出した。車内灯に赤いビニールを被せて赤色灯にしてモデルの女の子を置いて動画を撮っていた。長閑である。その後,日本人なんてあまり見掛けないので是非映画に出演してくれと言われたが,ボルジョミでは時間があまりないので断った。どんな映画だろうか。

20:50頃,約25分の遅れでボルジョミ(Borjomi Park)駅到着。ボルジョミはかなり雪が残っていて寒かった。駅近くのレストラン「My House」へ。

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ハルチョー,ヒンカリ,シュクメルリ,白ワイン(ツィナンダリ)を注文。どれも素晴らしくうまい。ハルチョーはパクチーの量が絶妙だった。台湾や中国の屋台でパクチーの入った汁物を食べると大抵パクチーの味しかしないのだが。

二人前で合計66ラリ(=2500円)と少々高くついたが,ワインをボトル一本空けているので,日本の感覚から言えば充分安い。

飯を食った後,宿へ移動。チェックイン時間を1時間ほど過ぎてしまった為かスタッフが不在で30分くらい中に入れなかった。野宿を覚悟しつつBooking.com経由でメールを送った結果,オーナーの弟が駆けつけてくれた。宿の人に迷惑をかけないよう余裕を持って行動すべきだった。宿は20ラリ(=800円)だった。 

 

カフカス旅行記2へ続く。

qjitai.hateblo.jp

*1:アゼルバイジャンでは使えない

*2:公式サイト上の"International Train"(国際列車),"Night Passenger Trains"(寝台列車),"Fast Trains"(特急)

*3:公式サイト上では"A Passenager Electro-Trains","Commuter Electro-Trains"(エレクトリーチカ)

田中賞巡り - 福島高架橋 ('67)

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 大阪市福島駅周辺に架る阪神高速の福島高架橋。

建設当時,この周辺には幾つもの鉄道が通っていた。

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地理院による1974-78年頃の空撮写真。写真下側から左側へ緩いカーブを描いているのが福島高架橋である。僅か200mの区間で,写真下側(南側)から順に阪神電鉄本線,国鉄梅田貨物駅(いわゆる梅田南貨物駅),国鉄大阪環状線を連続して跨いでいる。

この橋の施工に当っては,国鉄阪神の営業に差し障らないよう施工時間・用地の制約が課せられた。その結果,変則的な支間割が連続する長支間曲線橋となった。当時は未だ曲線桁橋が極稀な時代であり,架設や構造設計に様々な工夫が凝らされた。

なお,この橋が跨いでいた阪神電鉄本線(野田駅西側から梅田駅までの区間)は1993年に地下化された。また梅田南貨物駅は橋の完成から15年後の1982年に廃止され,オオサカガーデンシティとして高層ビルが櫛比する街へと再開発された。

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地理院による現在(2007~)の空撮写真。

田中賞とは関係ないが,阪神高速11号線の本線と梅田出入口への分岐点附近に,高速道路が貫通したビルとして有名なTKPゲートタワービル(1992年竣工)がある。冒頭の写真でも奥に見える。

 

参考文献

http://cvv.jp/CVV2/kengakukai/naniwa%20no%20meikyo(+bridge)_2018/naniwa%20no%20meikyo(+bridge)(W)/(5)Fukushima_Kohkakyo/OUTLINE_FUKUSHIMA.pdf

 

関西の鉄道の自動案内放送に現れる地元アクセント

1.「地元アクセント」

関西の鉄道の自動案内放送でのアクセントが屡々話題になる。例えば,

矢印で表記されたアクセントは解釈が難しいが,京阪の車掌が /モリグチ]シ/ と発音する一方,谷町線の自動案内放送では /モ]リグチ/ となっていて驚いたという内容だと思われる。

関西に20年以上住んでいる私もそういう驚きはよくあった。例えば,今里筋線の「関目成育」は,/セ]キメ|セーイク=/ とか一語化した /セキメセ]ーイク/ とかを予想していたら,実際の自動案内放送の発音は /セキ]メ|セーイク=/ であった。谷町線の「関目高殿」も /セキ]メ|タカドノ=/ である。曩の「守口」の例のように同じ地名でも事業者毎に発音が異なる場合もある。例えば,「熊取」はJR西日本では /クマ]トリ/ だが,南海ウイングバス南部では /ク]マトリ/ である。

 

こういったアクセントは,共通語(或いは実質的標準語)の東京式アクセントの体系に沿い乍らも,実はその地域でのその地名の発音をある程度反映したアクセントと考えられる。私は「地元アクセント」と呼んでいる。

例えば,先程の「関目」は地元ではどう発音するかというと,京阪式アクセントで /Lセキ]メ/ である*1。自動案内放送の /セキ]メ/ はこれを反映した地元アクセントだと考えられる。守口 /モ]リグチ/ や熊取 /ク]マトリ/ の類も地元アクセントである*2。また地元アクセントは関西に限らず全国に存在する。

但し,地元アクセントはあくまで東京式アクセントの体系に沿ったアクセントであって,必ずしもその地域のアクセントと完全に同一ではない。地元アクセントは,「その地域のアクセントそのものではないが,東京式アクセントの範疇の中で "それ風" にしたアクセント」に過ぎない。例えば,御堂筋線堺筋線の「動物園前」について,京阪式アクセントは /Lドーブツエンマエ=/ で,自動案内放送では /ドーブツエンマエ=/ である。東京式アクセントでは一般に /ドーブツエンマ]エ/ となる筈なのでこれは地元アクセントであるが,無論京阪式の低起無核と東京式の無核とではピッチの上下動がまるで別物である。即ち京阪式ではドが低く始まり最後のエに向けてピッチが上昇するが,東京式の典型的発音ではドが低く始まりその次の拍から高く平坦に(しかし若干のピッチ下降を伴いつつ)発音される。

 

2.なぜ地元アクセントを採用するのか

その地域のアクセントと共通語或いは実質的標準語たる東京式(の体系で帰納的に推測される)アクセントとで大きな懸隔がある場合,東京式アクセントでその地名が発音されるとその土地の者に大きな違和感を生じさせる。京阪式アクセント母語話者の私もそういった経験は非常によくある。例えば,或る東京式アクセント母語話者のYouTuberが「三宮」を /サンノ]ミヤ/ と発音していて非常に気になった。「一宮」は /イチノ]ミヤ/,「二宮」は /ニノ]ミヤ/,「四宮」は /シノ]ミヤ/ なので,帰納的に /サンノ]ミヤ/ と発音したのだろう。しかし地元でのアクセントは /Hサンノミヤ=/ で高起無核であり,阪急等の自動案内放送では /サンノミヤ=/ という地元アクセントが採用されている。又,ユニバーサルスタジオジャパンが東京式アクセント母語話者に /ユニバ=/ と発音されるのを聞いたこともあるが,/Lユニ]バ/ というアクセントに親しんだ関西人の感覚からすると大きな違和感があり,何だかむず痒くなる。

鉄道やバスなどの公共交通機関の自動案内放送に地元アクセントが採用される理由は,その地域のアクセントと東京式アクセントとのこういった懸隔に対する地元への配慮と考えられる*3

そして地元アクセントは公共交通機関だけでなく放送業界でも使われている。以下にNHKの例を挙げる。

NHKでは,日本各地の地名(市町村・旧国名・自然地名など)を,全国放送の場合,地元の発音アクセントをそのまま用いるのではなく,共通語の発音に置き換えて放送している。全国的に見て,わかりやすく,また,放送する立場のアナウンサーが,全国の地元アクセントをすべて記憶するのは至難の業だからでもある。しかし,地域放送では,番組担当者の判断で地元のアクセントを用いてもよいことにしている。地元の人たちにとって,地名は非常に身近なものであり,アクセントを共通語式で言われると違和感を生じる場合が少なくないからである

NHKことばのハンドブック 第2版』p.130)

ここでの「地元のアクセント」は,その地域の発音そのままなのか,上記の地元アクセントなのかは定かではないが,関西在住20年以上の私の内省として,NHK神戸など地方局の番組では地名などで頻繁に地元アクセントが使用されている印象である。そしてその採用理由としては,その地域のアクセントと東京式アクセントとの懸隔に地元の人が違和感を持つことが少なくないから,即ち地元への配慮と解釈できる。こうしたNHK地方局特有のアクセントは,地元放送局アクセントと呼ばれており*4,本記事でいう地元アクセントとほぼ同じ概念,即ちその地域のアクセントをある程度反映した東京式アクセントである。井上(2016)*5は,

地元放送局アクセントは,当該地域で親しまれ,その多くは大切にされているアクセントと言える。逆に言えば,地元放送局アクセントを使えば,より地元で親しまれているアクセントを話し手が選んだことが,聞き手に理解され得るものとも考える。…(中略)…それがふさわしいと考えられれば,どの放送局であっても,あるいは番組が全国放送であっても,ニュースであっても,使用して構わないものと考えている。

(井上裕之:日本地名と「地元局アクセント」,放送研究と調査,Vol.11,p.36-52,2016)

と述べているが,まさにこれと同等の配慮が公共交通機関の自動案内放送にも現れているのだろう。

ちなみに,地元放送局アクセントと公共交通機関の自動案内放送に現れる地元アクセントはほぼ一致する。例えば地元放送局アクセントとして「池田」/イ]ケダ/,「泉佐野」/イズミサ]ノ/ などがあるが,/イ]ケダ/ は阪急で,/イズミサ]ノ/ は南海でお馴染みの発音である。

 

3.鉄道の自動案内放送に現れる地元式アクセントの例

関西の鉄道の自動案内放送に現れる地元アクセントを思いつき次第以下に追加していく。1つ目(太字)が地元アクセント,2つ目が東京式アクセントである。

 

1) 大阪メトロ

動物園前  ドーブツエンマエ= ドーブツエンマ]エ

あびこ  アビ]コ*6 アビコ=

長居  ナガイ=*7 ナ]ガイ

守口  モ]リグチ モリ]グチ

関目成育  セキ]メ|セーイク= セキメセ]ーイク

関目高殿  セキ]メ|タカドノ= セキメタカ]ドノ

谷町○丁目  タ]ニマチ タニ]マチ

長原  ナ]ガハラ ナガ]ハラ

西長堀  ニシナ]ガホリ ニシナガ]ホリ

鶴橋  ツ]ルハシ ツル]ハシ

恵美須町  エビス]チョー エビスチョー=

長堀鶴見緑地線  ナ]ガホリ|ツルミリョクチセン= ナガ]ホリ|ツルミリョクチセン=

市役所前  シヤクショマエ= シヤクショマ]エ

扉  ト]ビラ トビラ=

大阪市営地下鉄 オーサカシエーチカテツ= オーサカシエーチカ]テツ

 

大阪メトロ(大阪市営地下鉄)の自動案内放送は,有志のサイト 大阪市営地下鉄(大阪メトロ)車内放送・駅放送/SAS で実際に聞くことができる。なぜか谷町線は地元アクセントの採用が多いようである。

 

2) 阪急電鉄 駅構内自動放送

大宮  オ]ーミヤ オーミヤ=

*8 カ]ツラ カツラ=

池田  イ]ケダ イケダ=

中津  ナ]カツ ナカツ=

神戸三宮  コー]ベ|サンノミヤ=  コー]べ|サンノ]ミヤ

 

(思いつき次第順次追加)

*1:本記事では低起式をL,高起式をHと表記する。

*2:但しこういう頭高の発音は,京阪式アクセントの母語話者たる私の内省としては年配層のみに限られてきており,若年層は /Lモリ]グチ/,/Lクマ]トリ/と発音することの方が多いと思われる。

*3:若しくは,自動案内放送を発注する段階で,発注者がその地域のアクセントを実質的標準語たる東京式アクセント風にした発音で依頼した結果,このような地元アクセントが生成されたと考えられる。

*4:NHK日本語発音アクセント新辞典』付録1解説編pp36-37

*5:井上裕之:日本地名と「地元局アクセント」,放送研究と調査,Vol.11,p.36-52,2016.

*6:2019年6月現在は /アビコ=/ に変更されている。

*7:2019年6月現在は /ナ]ガイ/ に変更されている。

*8:これは微妙。東京式ネイティブによると違和感はあるらしい。